ソフトクリームを合計四つ、和哉と樹里が手にしていた。
「メリーゴーランド乗って、ソフト買ってきた」
 宇美は優しい。そっとソフトクリームを雪菜に渡すと宇美は隣にそっと隣に座った。
「お金……」
「良い。俺がおごる」
 差し出したサイフを、和哉が押し返した。
「でも」
「こういうときは男を立てろ」
「……じゃあ、雪菜は宇美の分おごる」
「どういう理屈だよ」

 俺だって男なんだよ、そう言い返したいのを飲み込んで雪菜は財布を引っこめようとしなかった。
せめて宇美の前では、男でありたかった。

「いいよ、雪菜」
 笑いながら却下され、サイフをバッグにしまう。回りは一般客であふれかえり、賑わいを保っていた。少し拗ねつつ無理強いするわけにもいかず、ウェットティッシュを代わりに配る。
それを全員が使うと、それぞれソフトクリームを食した。バニラビーンズが入っていて甘く、とても美味しかった。
「次は何する? お土産でもみるか?」
 和哉が口を拭って提案。
此処のサブレはおいしいと評判である。雪菜たちも入場した時に配っていた試食をして後で買おうかと考えていた。しかし、まだお腹は空いている。雪菜にいたっては腹を鳴らしたほどだ。

「それよりお昼ご飯食べません?」
 宇美がバスケットを掲げて言った。
 少し照れている姿がまたかわいらしい。中はサンドウィッチの詰め合わせで、チキンもあった。
 空けた瞬間おいしそうなにおいが食欲を誘う。

「さあ食べて食べて」
 自慢げに宇美。雪菜は卵サンドを選んで頬張る。
「あ、おいしい」
「よかったぁ」
「うん、美味しいよ」
「俺もそう思う。宇美ちゃん上手だな」

 樹里が食べたのはカツサンド。和哉はトマトサンド。
 嬉しそうに微笑む宇美はお腹を擦っていた。

「宇美? お腹痛いの?」
「……どうってことないよ」
 そう答えてはいるものの顔色は悪く、表情も歪んでいた。

「……うえっ……」
 宇美は口元を押さえ、崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。  自分が酔っていて、宇美の体調不良を見逃した。雪菜が今更後悔しても遅かった。
彼女は真っ青なまま、吐き気を堪えていた。
 彼女はもともと朝が強いほうじゃない。それなのにきっとお弁当にと早起きをしたのだろう。容易に予想がつきそうなものなのに、 冬田先輩との仲を邪魔することに精いっぱいで、まるっきり気を回せないでいた。
それに、確か今は生理周期。
雪菜が把握してるというのも変に思えそうだが、彼女は生理が重いタイプなので、体育はいつも見学だったから自然と覚えてしまっていた。

「宇美!」
 宇美はそのまま、すべてを吐き戻し震えたまま地面を見つめて、顔をあげようとしない。

「ご……ごめんなさい、食事中に」
 叱られる前の子供のように宇美は怯えたように縮こまっていた。
 好きな人の前で嘔吐すれば、誰だってショックだろう。嫌われてしまう場合も少なくない。
「宇美! どうして具合悪いのに」

答えはわかっていた。
“先輩”と一緒に居たかったのだろう。雪菜は樹里にティッシュと水とゴミ袋を持ってくるようつげて、和哉には見ないで欲しいと伝えた。
てきぱきと雪菜は動き、宇美の背中をさすってやった。

「大丈夫?」
「ありがと……」
「貰ってきたよー」
 もらってきたティッシュで吐瀉物を拭い袋に詰める。コップに入った水でうがいをさせてポカリを渡した。
 頭にぬれたタオルを乗せ膝枕をした。しだいに顔色も良くなり、呼吸も定まってくる。 

 先輩にあわせる顔がないのだろう、宇美は誰とも視線を依然合わせようとせずに、大きな瞳を閉じていた。
「先輩、雪菜と宇美帰っていいですか?」
「え、あ、俺運ぼうか?」
「いいです、雪菜がおぶっていきます。家も知ってるんで」
「でも、女同士じゃ」
「できますから」
 雪菜は見せ付けるように宇美を背中に乗せたちあがってみせる。
 ふらつきもなく、ぽっちゃりして見える宇美があまりにも軽く柔らかで「ああ女の子なんだ」と思った。
背中に当たる柔らかいものへの衝動を堪えて顔を上向きにした。

 ゲートをくぐり、バスに乗る。バスでは隣に座り宇美を支えた。

「雪菜」
「何?」
「ごめんね……」
「気にしない」
 雪菜の作り物でない笑顔は宇美の心を暖めた。

(やっぱり、こんな格好してるけど男の子なんだなぁ)
 宇美がそんなことを思っていることなど露知らず、雪菜は和哉の事を考えていた。
 思っていた以上にいいヤツなのかもしれない。
嫌いといった雪菜に対してもあの態度なら、宇美を渡してもいいかもしれないなんて考えも浮かぶ。

「宇美」
「何」
「お前は、先輩が好きなんだな」
「……うん」
「じゃあ、伝えてみたらどうだ?」
 どうせ両思いなんだから言ってしまえばいい。
そうすれば、雪菜も諦めがつく。

「でも、今はもう一人気になる人が居るの……」
「誰?」
 コテン、と首を曲げ雪菜によりかかる。
「まだ教えないんだから」
「明日先輩に告白してみたら? 付き合うだけ付き合ってみて……あの人なら強引に何かしそうに思えないし」
「うん、そうする……先輩やさしかったあ……雪菜も……」
「? 聞こえなかったんだけど」
「聞かなくていいの」

 コレで宇美の恋が実ればきっとさっぱりあきらめられるだろう。フラれるとは考えられない。
何せ自分から告白してきたのだから、ソレを了承しただけなのだから。


その日は雪菜はなかなか眠れなかった。


    「好きです! 先輩!」
   和哉の顔を一身に見つめた宇美の瞳はハートになている。
「俺もだよ宇美ちゃん!」
 和哉は笑顔で宇美の手をとる。

「さあ!愛の口付けを」
「足の裏へ!」
「さあ!」
「さあ!」

「うわああああああ」
 最悪の目覚めだった。雪菜は起き上がりざま頭をぶつけ頭を抑えながら布団に埋もれた。
(なんか変なの混ざってなかったか)

 もうあきらめたつもりとはいえ、いきなりそんな光景を見せられたなら発狂しそうだ。
 雪菜は布団を剥ぐようにめくり顔を軽くはたく。

(しっかりしろ、自分)

 パジャマを脱ぎ、用意していたTシャツとミニスカに着替える。
今日のはお姫様チックな女の子が描かれたパステルカラーラメ付きのTシャツだ。スカートは赤のチェック。無地の同じ色のハートのポケットが貼り付けられている。蛍光イエローの二―ソックスをはいて、コンバースのスニーカーを合わせる。
髪の毛はゆるいお下げにした。
ヘアアレンジも手なれたもので、雑誌に乗ってるヘアスタイルは大体することができる。
将来ヘアアーティストにでもなるべきなのだろうか。


食事を終えてニュースで時間を潰していると宇美はやってきた。

「雪菜っ」
「うわあ気合入ってるねぇ」
棒読みでそう答えたくなるほど宇美のメイクはトンチンカンだった。
真っ青なアイシャドウに真っ赤な口紅。おてもやんなチークに厚塗りファンデーション。髪の毛は縦ロールに。
何時もはきちんと個性的ながらメイクできているのに、よほど緊張しているのだろう。

「ちょっとこっち来て。直してあげる」
 あきれつつ部屋に宇美を上げると棚からメイク道具を取り出す。
吹くだけのクレンジングで顔を綺麗にして基礎化粧品で整える。

「男は大体ナチュラルに見える化粧が好きなんだよ」
手慣れたてつきでフルメイクを終えて最後にコロンを吹きかける。
「これで男なら落ちるね」
「雪菜、もしかして勘違いしてるんじゃ……」
「ん? 何? あー、時間ないや。行くよ」
「あ、うん」
 二人はあわてて家を出る。

 学校へたどり着くまで二人の心臓は高鳴りっぱなしだった。

 宇美は誰が見ても動揺しえ不安定なのがわかるし、それを見ている雪菜は雪菜で不安で仕方がなかった。
 もし、宇美が和哉にフラれたら、告白してみようと思い始めたのだ。

 正直宇美を振るだなんて許しがたいが、いいチャンスといえばいいチャンス。
 男ならかけてみてもいいかもしれない。どうせ同性としか思われてないのは目に見えて明らかだが、男として見てもらうきっかけを作れば、違うかもしれない。
「昼休み、屋上に来てくれるよう約束しておいたから」
 宇美はそう言ってそそくさと教室に入っていった。
 ……そして、昼休みがやってきた。







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