「ねぇ!いい加減恥ずかしいんだけど」
 不機嫌そうに雪菜に少女が話しかけてきた。前髪が短い茶色いボブカットのぽっちゃりした小柄な彼女。
顔はメイクでしっかりキめられている。
休日に至ってはフルウィッグやエクステでさらに過激なヘアスタイルになっている、そんな人だ。
一応、彼女も中学生である。雪菜と彼女だけが並んでいると、年齢不詳だけれども。何せ、ビジュアルが派手なもんだから……。

別に彼女はぐれてるわけじゃあない。ただの服飾華美な趣味なだけ。
授業態度はとても真面目。おうちの事情で奇抜な雑誌のモデルでアルバイト中。
だからこそ、許されているヴィジュアルなのだ。
私立の学校としては、有名な生徒が在籍しているだけで客寄せパンダになる。それゆえ、学費も多少免除されている。


まあ、そんな彼女のプロフィールは置いといて。

「その変質者的な追い払い方やめてほしいんだけど」
 あきらめ気味に宇美が言う。

 かわいい顔してなんとやら……。神様、何故あの人にルックスというものを与えたのですか。そう、宇美は問い詰めたかった。
「これで告白された人数百! やりぃ!」
「何に対抗してるの」
「宇美はたしか……」

雪菜そう言ってにやにやする。

「その間は何、嫌味か」
 どうせお前は告白される対象外ですよ、といいたいのかと。宇美は大きくため息をついた。

横目で雪菜を見た。うん、かわいい。すっごく可愛い。
上機嫌に鼻歌まで歌ってまあ。
こいつが、男じゃなければいいのに。暑さと関係なしに頭がくらくらしてくる、そんなふうに友人宇美が思っているなんてこいつは多分知らないだろう。
宇美に対しては普通の女友達のノリだし、保健室に居座るための心臓病を持ってるとか胡散臭い噂も女なら同情したくもなるだろう。

月下家は、男に生まれたら早く亡くなるという言い伝えが昔から伝えられているらしく、女装してそれを防ぐのだ。それは高校卒業まで続くらしい。
「だまってればの宇美ちゃん。俺から見たら俺よりかわいいと思うよ」

 一瞬、どきりとした。

 けれどもそんな宇美のときめきは、目の前でキラキラ輝く発言者を見つめているうちに消えていった。
(……あんたのほうがかわいいじゃん)
「それ、人前で言ってくれるなよ」
 暴動がおきるから。絶対に。
雪菜ファンは男女ともに多く。教師にまで広がっている。
それとセットで動く宇美にも注目が行く。読者モデルでもやってそうなぐらい服のセンスは個性的でおしゃれだ。
女友達が多くないのは幼馴染として雪菜を見守っているからだ。
家に定期的にお金や食べ物がやってくるので、素直に釣られてるのだ。
服だって、自分に合わなかったからですぐくれるし、便利な幼馴染である。
ちなみに、名前は高校を卒業した暁に変更するらしい。

葉がかすれあう音に耳をかざしそっと銀杏の木の根っこあたりに座り込む。
「夏だなぁ」
雪菜はそう言ってねっころがった。
「そこ、この前犬がションベンかけてたよー」
にやにやしながら宇美。雪菜はその顔を見ているといらついてしょうがなかった。
けり倒したい。そんな欲求と戦いながら顔をそらすことでそれを防いだ。 宇美だって女だ。体に傷をつけるのはよくない。、第一、殴りたくもない。


「女装、絶対楽しんでるでしょ。私服学校だからってスカートばっかり。しかもこれ人気ブランドじゃん!ってのばっか」
「自分をかわいくするのは趣味だから、規則がなくなっても続けるかも」
「つるっぱげになっても女装するんですね」
「ウィッグがあるしな」
「一生自分をおかずにして生きていってください。私っ全力で応援する!」
「で、宇美って告白されたことあるの?」
「いつも雪菜と一緒にいるからなぁ。あ、また男子児童が来たよ。今日連続じゃん」
「え、今日はこれで終わりなはず……」
「雪菜ちゃんはココです〜」

宇美はブンブンと手を振り居場所をアピールした。
そのしぐさに応答したのは三年のバスケ部男子だった。
確か、名前は冬田和哉。引き締まった長身のイケメンだ。
黒髪で、肌は自然に焼けた彼は女子の中でも好感度高めだった。

彼はまっすぐ二人のほうに歩いてくるとなぜか宇美の前に立ち止まった。
無言のまま時が流れ、しばらくして和哉は深呼吸をして己を落ち着かせた。

そして、決意が固まったのかまっすぐ前を向き、言った。

「好きです!野原宇美さん!」
「は?」
宇美と雪菜の声が重なり木霊する。

アホの子のようにお互いの顔を見合い、もう一度和哉の顔を見た。
真剣な表情の視線の指す先は間違いなく宇美だ。

目の前の彼はまっすぐとこちらを見据えていた。
こうして、奇妙な三角関係が始まった。
 




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