「うわあ、かわいいな小枝子! いつもどおりかわいい!!」
千鶴は小枝子のプリクラを見て感嘆の声を上げた。
背後で、
啓人が鈴音に彼女の撮影で使ったらしきプリクラをもらって喜んで子供用携帯に張り付けている。
あわてて鈴音は止めようとしているけれど、顔はわらているので、本音はうれしいのだろう。
「千鶴……写真ぐらいでそんなにうれしい?」
「うん!」
「即答ですかい」
(まあ……友達との写真とか、家族との写真は大事だし、もらってもうれしいけど)
「俺のと交換!」
「え、千鶴もってるの?」
意外だ。ほのかとでも記念に撮ったのか。
「たまに誘われる」
「へえ」
「だから、一応手帳に張ってる。ほら、最後のほうにあるメモコーナーに」
「私も張ろうかな。手帳持ってないけど」
「たしか財布に入れたままだったはず……ちょっととってくる」
そう言って千鶴は立ち上がる。
数日前、啓人の退院が決まった。その日が、今日。
手続きだとか、準備だとかで、即日にはできなかったけれど、
ほのかと同じ家に住むという条件付きで許可が下りた。
もうこの密室で過ごさなくていいのかと思うとどこかすっきりした気持ちになった。
色々抱えてたものが、
なくなったという理由のほかにもやっぱり啓人が小枝子を小枝子と扱ってくれるようになったことが大きいだろう。
色々な裏事情は、啓人が話してくれるまで聞かないようにしようと決めた。
「これー」
長財布から、数枚のプリクラの束を取り出す。
「……え」
そこに居るのは女の子に囲まれてる千鶴。
しかも結構バラけたメンバー。
(え……)
思わず千鶴の顔色を見る。
いつ戻りにこやかに、悪気もなさげな様子で不思議そうに小枝子を見ている。
もちろんほのかとも、何度かとっている様子ではあるけど。
「……ちづる。これはおともだち?」
なんだかつんけんした言葉遣いになってしまい、小枝子は自分でも嫌な奴だと思いながら言った。
「そうだが?」
きょとん、としている千鶴には悪気はないのだろう。
けれど。
(……なんかむかつく。一応付き合ってるのに他の女の子との写真持ち歩かれたり……ねえ)
撮ること自体はまあ、誘われたと言っているし、
日付はすべて出会う前のものだけれど……それを堂々と見せて交換しようと言いだすのはちょっと無神経じゃないのか。
それとも千鶴は気にならないのか。小枝子が、別の男と仲良くプリクラ撮ってても。男に囲まれていても。
普段の対応を見ていれば、それはないだろうという予測はつくけれど……。
「いらない」
「え」
「そのプリクラいらないっ」
「……なんで、なんでだ?」
「馬鹿っ」
千鶴の分に切り分けたプリクラを押しつけて、鈴音のほうへと小枝子は向かった。
「鈴音ちゃん、手帳見せて―」
振り向かずとも、絶対しゅんとしている千鶴が想像できたけれど、
つい感情が優先してしまって戻って笑って許す気にはなれなかった。
(あたしだけが特別に、なんてわがままだって知ってるよ)
「わーかわいい、さすが」
「みんなお仕事の仲間なんです」
(だけど……)
鈴音の友達は、みんなお洒落だった。落書きのセンスもいい。
たまに話題のタレントと一緒に写っているのもあって、ちょっとびっくりしたりする。
そりゃあ、彼女の交友関係は母関係も、
自分関係も合わせればすごいメンツだらけだとしてもおかしくはないのだけれど。
「でも一番かわいいのは鈴音ちゃんだよ!」
啓人が声を張る。
鈴音が困るようにまた照れる。
「小枝子さんは……千鶴さんとのはないんですか?」
「あー……撮ったことない……時間なくて」
「今日行ってみたらどうですか?」
「でも、荷物とか……」
「私運んでくれる人呼べるので大丈夫です。お金に困ってる知り合いがいて……安く荷物運びしてくれると思います」
「でも、そんな」
「大丈夫です、私お金余裕あるんで今月」
そう言って、鈴音はちょっと強引にすすめるので、自分の心の葛藤をあきらめて千鶴のほうに振り向いた。
案の定泣きそな顔をしながらしょげて正座していた。
「千鶴、プリクラ撮ろう?」
「小枝子……」
少し、千鶴の顔に光が差す。
「二人っきりでは、ともだちとはとっちゃだめだからね? 特別な人か、ほのかさんとだけね」
「……わかった」
千鶴はたぶん、女の子ばっかとプリクラで怒られた意味を当初は分からなかったのだろう。
今は理解したのかしないのか、一応は反省しているようで、
小枝子のプリクラもどこかに張ったのか、みえないとこにやっていた。
「あたしも、今度友達と撮ろうかな」
「俺が一番多く小枝子と撮るっっ」
「……あたしもそうしたかったの」
だから、むかついた。
千鶴を独占しているのは自分だと思ってた。
でもそれは、最近に限定してみた話。
昔は、別の子と一緒に過ごしていたのだ。
その証拠を見せられてもやもやとした感情になっていたのだ。嫉妬だ。
「本当か?」
千鶴が明るい声で嬉しそうに言う。
「たくさん撮っていろんなところに張る!」
「……それは恥ずかしいからやめてほしいかも」
「? 何でだ?」
「……ああもう……」
嬉しそうにしている千鶴に水を差すのも何なので、行ってきますとほのかに告げて部屋を出た。
千鶴の趣味で、茶皮のリボン付きバッグを持たされた。
なんかいろいろ飴とか入っている模様。
本人は荷物は少なめなのか、ななめがけの黒い革バッグで済ませている。
服はいたって普通のシャツにジーンズなのだけれど、シャツは長袖で淡いサーモンピンク。
その上に、薄手の黒いベスト。
(……女の子みたいだわ、やっぱり)
ベストにリボンとかつけちゃえば、誰も疑うまい。
「楽しみだなあ」
歌うような声で、千鶴。
テンポの遅い千鶴に合わせて、小枝子はゆっくり歩いた。地図を持っているのも、小枝子。
一応この前言ったばかりだけれど、なにかあったら……と思うと保証がほしくなるものだ。
同伴者が千鶴だからっていうのあるだろうけれど。
本音を言ってしまえば、いつ倒れるかわからない相手と一緒にぶらつくなら、
道を案内する紙を持ち歩いていたほうがいい。
そうすれば救急車もタクシーも案内がスムーズにいく。
(そんな心配しなきゃいけないのもあれだけど、千鶴と二人きりで出かけれるなら……って)
それに、そんな簡単に体調を崩さないだろう。
ほのかの世話の焼きようで、つい不安になってしまいはするけれど。
(なんか栄養ドリンクみたいなものほのかさんにのまされてるのを見るし、点滴もたまに……)
不安になって、途中で自販機でボトルの水を二つ落とした。
千鶴の場合、ほおっておいたら熱中症で倒れたりするだろう、また。
当然のように、今日は暑い。人々も薄着だ。
なのに、千鶴は長袖で、ある意味目立っている。
でも、熱そうにはふるまわない。基礎体温が違うのだろうか。
ゲームセンターを見つけると、すぐに中に入った。
あまりうるさくない、きれいなクリーム色の壁にポスターがたくさん貼られた、そんな場所。
上はどうやら小さな映画館をやっているらしく、そのせいかゲームセンターの面積はそこそこ広い。
その割には、マナーの悪い客もいない。近くに交番があるからかもしれない。
小枝子は、機種を適当に決めると千鶴を招き入れる。
それからは、鈴音の行動を思い出すようにしていった。千鶴に任せるという手段もあったけれど、
手慣れていたらそれはそれでまた嫌な思いで不機嫌に自分がなりそうでやめた。
カップルコースにして後は自動撮影。
自動的にダーリンとかハニーとか愛ちてるとか落書きされていて、恥ずかしいけれどちょっとにやける。
落書きで大好きと描くのは、羞恥心がたまらないため、小枝子はこっそりそういう言葉が先にあるのを優先的に選んだのだ。
「小枝子かわいいなあ」
「はいはい、全部満面の笑みでうつらないの」
「だってうれしいから」
「全部同じ顔で同じようにあたしに張り付いてるだけじゃない」
「駄目なのか?」
「ほかの子と撮った時はもっとモデルみたいだったじゃん」
「あれは友達だったから、普段通りの表情になっただけだ」
「ああもう……」
本人は大マジだけれども、甘ったるい言葉をかけられて、ついまあいいやって気持ちになってくる。
「いつでもこれぐらいできるでしょ? 帰りにでも寄ったりさ」
「……そうだな」
千鶴の声はちょっと投げやりだ。
撮影の終了カウントダウンが近付いたからか、割と軽い感じの微笑で2人でピースサイン。
その後落書きタイムでピンクのカーテンのところへ移動してねなんてコメントが出てきたので移動。
出来上がった画像に落書きしながら、ふにゃふにゃになった口元を必死で小枝子は普段通りに戻そうとした。
最後の一枚はやたらと小枝子の顔が紅潮してたから、ほっぺたにぐるぐるを描きこんでごまかした。
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素材はここでお借りしました。