お飾りでいい。
あんたがいればあたしは一人っきりじゃない。
彼氏のいないさびしい女じゃない。
どうせあんたはあたしが好きなんでしょ?
じゃあ、付き合ってあげるよ?
恋愛攻略マニュアル
「あー……芽衣君カッコいい、運動神経いいモデルって最高じゃない?」
「はいはい、どうせ僕は間逆ですよ、何弱の運動音痴のヘタレですよ」
一矢がすねた声を出す。
「でも一応僕彼氏なのに……」
「何言ってんの。うちらが付き合ったのは流れでしょ? 幼馴染のなし崩し。
周りが勝手に付き合ってると思い込んで、一矢は離れてくれないし……
とりあえず一緒に居るっていうか付き合ってあげたっていうか」
「……わかってるけどさあ……もうすこしいたわってよ」
「なんで?」
「…………」
郁也とは、幼稚園以来の幼馴染。家も近くて気が付いたらこんな関係が出来上がっていた。
「杏里……」
露骨に一矢がしょげる。
あたしは目の前に合ったコーラのボトルを勢いよくカップに注ぎ飲みほした。
(……一矢、見た目は悪くないんだけど……ぱっとしないんだよねー……なんていうか)
一矢の家族はみんな華のある派手な美形なのに。 顔のつくりはそこまで変わらないと思うんだけど、なんかオーラっていうか色気が違うというか。
高校1年にもなるのに、一矢にはそういう雰囲気がない。おとなしめの、いい子ちゃんって感じ。
人がいいのはわかるんだけど、取り立てて特技もない。正直運動音痴だし、
勉強はできないわけではないけど多分あたしと大差ないレベル。
お兄さんもお姉さんも、おじいさんまでも、いつも異性に囲まれているのに。一矢はぶっちゃけモテない。
草食男子とかいまどきの言葉で表せないほど、女っけがない。
昔からあたしにべっとりだ。
今だってクラスは違えどなぜか同じ高校に通ってるし。
頭のレベルが近いから当たり前なのかもだけどさ。
「一矢もこれぐらいかっこよかったらなー……自慢できたのに」
「……今の僕じゃいやなの?」
切なそうに一矢。
「?」
「……んー……僕にもコーラちょうだい」
「いいけど、多分炭酸抜けてるよ?」
「それでいい」
悩むような表情の一矢にコーラのボトルを渡す。
あたしは近くにあったハート型のピンクのクッションにうずくまる。
ふち取られたレースが少女趣味でかわいいお気に入りのクッション。
(さっきの表情……なんだったんだろう)
やけに深刻な顔してた。一矢らしくない。
「あーあなんでうちら付き合ってるんだろう」
ぼそりと、あたしはつぶやいた。
「僕は杏里が好きだよ? 杏里は違うの?」
「嫌いじゃないからOKしただけー。一緒にいて苦じゃないし。今時男経験0だと思われるヤじゃん」
「そんな理由?」
「男もちってだけでなんかいいじゃん?」
一人身より、全然カッコいいじゃん。
「……そっか……」
――その日を境に、一矢は変わっていった。
「一矢あ……??」
華を飛ばして彼はやってきた。ありえない。
手にはあたしの分の愛妻(夫?)弁当。
あたし達は基本的に一矢の作ったお弁当を中庭で2人で食べる。
その代わり、飲み物はあたしが準備してくる。
(え、誰……一瞬わかんなかった……)
なんか色っぽくあったような……気のせいだろうけど。
軽く通り過ぎる女子ともあいさつを交わしてるし……もやもやした感じでイラついて彼女を睨みつけた。
「杏里」
「へ?」
「お昼一緒に食べるよね?」
「あ、うん」
あわてて返事を返す。
(嘘だ……あたし今見とれてた?)
ないないないない。
そんなの絶対ありえないし。
どきっとなんてしてない!
(ありえない!!)
そんなはずない。
……だって一矢はヘタレで泣き虫であたしがそばに居なきゃだめで……。
だから放っておけないで泣いてあたしを好きだっていうから付き合うことにしたんじゃん?
――なのになんでほかの子と一緒に居ることにいら立ってドキドキしたりしてんの?
「キャアアアアア!!!」
女子の悲鳴。
科学の授業の実験中だってのに、うるさい。
それも黄色い悲鳴だ。外側の窓に向かって張り付いて叫んでる。
授業に参加しないで何やってんだか……。
「ちょっと!! あんたら」
「まじっすごーい!!」
「今授業中だってば!!!」
「きゃあああ」
「きーけーっ!!!」
完全無視。
「何アレカッコいい!!!」
「足めちゃ早いー!!!」
どうせどっかのイケメンが体育で走ってるんだろう。どうでもいい。
まずは授業にきちんと参加してくれないと、邪魔なんだけど。
そんなふうにたてつくから、あたしは浮いてるんだろうけどさ。
真面目に授業受けたい奴だっているんだよ。
遊びにきてるんじゃないんだから……そりゃあワイワイやるのはいいけど、
あたしは授業とその他ではっきり切り替えたいタイプだし?
「だあああからもう!!!」
あたしは精いっぱいの声を張り上げた。
「てかあれ一矢じゃん?」
「すごくね?」
「いつの間に運動できるようになったんだろ?」
(!?)
「意外だよねー……顔だけだと思ってたのに」
あはは、と女子たちが笑う。
「どいて!」
「え、あうん……」
気が付けばあたしはその女子の群れに割り込んでいた。
「嘘だあ……」
そこには華麗にドリブルをする一矢がいて……涼しげな顔をして男子達を通り抜け……華麗にシュート。
ありえない。
ドキドキしてるあたしも、そんな一矢も。
(何だこれ……)
「ちょ、っこらお前!!!」
教師の呼びとめる声も無視して、あたしは駆け出していた。
通り過ぎる途中ぽかんと女子がこっちを見ていた。どうでもいい。
向かう先は当然――……。
「一矢っ!!」
(何、何……何なのよ……)
「杏里っ」
無邪気な笑顔。
(……あれ?)
機嫌はよさそうだけれど、いつも通りの一矢がそこにいた。
見間違い、とかでは絶対ない。
だって周りの男子が茫然としてるし、上を見れば理科室からたくさんの生徒がこっちの様子をうかがっている。
「見ててくれたんだね」
ものすごく満足そうな顔で一矢。
「うん……」
(さっきの……本当に一矢だよね?)
「ほら、顔貸して。汗だく」
ぐい、っと強引にタオルで一矢の汗をぬぐう。いつも体育の後、こうしてる。
いつもはばてばてなのに、今の彼ははにかんで余裕そうだった。
「一矢さ……」
「ん?」
「すごかったじゃん、いつの間にあんなにバスケうまくなったの?」
「え……」
何故か戸惑う一矢は、少し困ったような顔をした。
「……ちょっと、ガマンしただけだよ」
一矢はくしゃりと笑った。
「我慢?」
「あーや……運動しまくって鍛えたり。色々」
「でもそんだけ成果出てるんじゃん、すごい。いつもは何してもさえないのにねー」
「あは……」
「いつもの一矢と違って、すっごくカッコよかった! 好きになりそう」
一矢は驚いたのか目を大きく見開いている。
その後、またクシャリとした笑顔で言った。
「じゃあ、もっとがんばるね」
夕暮の空。
僕は間違ってないよね、と自分に言い聞かせた。
これは杏里の望む僕だ。うん、平気平気。
力強く、ボールをつかむ。そして勢いよくシュート。
「……あ」
また外れだ。
予想通りだけれど……悔しい。
僕の体の影が暗くなる。きゅっと唇を噛んで、覚悟を決めた。
もう一度、思い切りシュート。
ボールは頼りなく、コロコロとコートに転がっていく。
「……これで、いいんだよね」
間違ってない。きっと。
(かっこよくなったよね)
僕には杏里の言葉がすべて。
「どうってことない、どうってことないよ……」
夕日に照らされた情けない自分の影を踏みつけて、僕は一人家路に着いた。
今日の一矢はなんだったのだろう。
カッコよかったはずなのに、落ち着いて考えてみると違和感。
そりゃあ、カッコいいほうが嬉しいし、そう思ってたけれど。
あいつの一族だってモテまくりだって知ってるし、たんに抑えていたのかもしれないし……それでも。
一矢だけは、いつも一族の後ろにいる。
とっかえひっかえ異性と付き合ったり、そんなことはしない。
よく、からかわれてるのを見かけたけれど、それでも彼はやりかえすことはしない。
ただのヘタレ? そうかもしれない。
自慢できる彼氏がほしかったのはあたしなのに、今そんな立場でいても、何で素直に喜べないんだろうね。
それどころか、どこかさみしいんだけど……。
いつも一矢が使っていたクッションを抱きしめて、あたしはため息をついた。
嬉しいどころか、キャーキャー言われている一矢が不満だったの。
取られちゃった気がしたの。
最低なぐらいわがままだわ、あたし。
わけわかんない。
頭の中がごちゃごちゃして、自分でもうまく言葉にまとめらんないの……。
(……寝よう)
こんなときは、夢に逃げる。明日なんか、来なければいい。
結論が、あたしの中では出てくれるまで、明日が先送りできればいいのに。
「見たああ?? 今日も一矢かっこよかったあああ!! たまんなあああい!!」
「てか別人みたいじゃんねー?」
「本当すごいよね!!」
変なの。あれから一矢はあたしの家に顔を出さない。
時々すれ違っても、足早に去っていく。まるで逃げていくかのように。
(夜帰ってくる時間も遅いらしいし)
あの家は、それが普通みたいだったけれど、一矢はそんなことなかったのに。
いつもあたしを送って帰って、それ以降は家で勉強。
今時珍しいぐらい真面目な奴だったはずなのに……それがダサいとか言われるゆえんでもあったんだろうけど、あいつが。
(……??)
視線を感じる。
太知ら見すれば、さっき一矢について語っていた女子たちで、ため息をついてそっぽを向いてやった。
「てか一矢と杏里って付き合ってなかった??」
「今あの子空気じゃん? 一矢しか友達いなかったじゃん」
「そりゃあ、あの子きついし……この前なんて掃除サボってたら口出してきてさあ……うざいのなんの」
「たしかにー……超同意!!」
(……掃除休みに掃除してて何が悪いわけ? サボってるほうが悪いんじゃん)
イライラする。
程よくゆるく過ごせればいいのに、あたしはそういうの放置できないタイプで、一矢との出会いもそんな感じで……
あいつが泣かされてるとこを割って入ったんだっけ……。
「ふられたんじゃん?」
「もったいないよねー!! 別れろ別れろっ」
ガタン、とあたしの心と机が音を立てて崩れた。
「わるかったわね!! どうせ釣り合ってないし性格悪いし!!」
「え」
感情に押されて、叫ぶように言った。
女子はぽかんとして、勢いで倒れた子なんてスカートの中身を丸出しにしたままあたしを見ている。
――何でムキになってんの? 事実突きつけられただけのこと。
ただ一つわかったこと。あたしにとっては一矢がそばに居て当たり前だったんだ……。
「でも告白してきたのは一矢だし? あっちがあたしとそばに居たくてそばに居るんだからいいじゃんか!
合わないから、一人で何が悪いの!!!」
……その、一矢もそばに居たいと思ってくれなくなったのかもしれないけれど。
(――やっぱりほかの人を好きになったから、かわったのかな……)
今でも鮮明に思い出す。
一矢がキョドり恥ずかしそうにあたしを好きだったと告白してくれたこと。
ずっとずっと好きいだったって。
中学から高校に上がる寸前だった。
あの告白は、かわいそうだったから? それとも、昔助けてくれたからっていう、借りを返しただけなの?
馬鹿みたい。
あの震えた声は嘘だったの?
なんで怒ってんだろう、あたし。ムキになんなくていいじゃん。
ただアクセサリーを奪われただけなのに……それなのに大切なものを取られた気がして……すっごく不安でイライラした。
「杏里居る?」
一矢の声だ。久々のお昼を一緒にするのだろうか。
いや、してくれるってのが正しいのかもしれないけど。
「何、何があったの??」
大量の女の子に囲まれた本人はすごく戸惑っている。
男子からも、嫉妬の視線。
「今日も体育やばかったね!」
クラスの女子が甘い声で声をかける。
「え……あの、杏里を」
「かっこよかったああ……まさかあんなにリレーは知れるとか」
「ねー」
「あん……」
(ご飯だっての)
一矢のところに向かってはみたものの、女子のバリヤーで通り抜けできない。
通行止め状態で、迷惑極まりない。
(……ああー……もうっ)
自分の体を女子の群れに押し込むように、前に進もうとした……ら。
「!!」
「杏里っ!!」
(転ぶ……!!!)
「!?」
気が付けば、あたしを抱きかかえてたのは一矢。
だいぶ遠い位置から飛んできたことになるし、何より……いつもの一矢なら、支えきれずに一緒に倒れ込んでいたはずなのに……
冷静に支えもなしに立っている。
「きゃああああ」
女子の黄色い悲鳴。
「見た、今の」
「すごい王子様みたいだった……」
ガバリ、と一矢があたしの体を放した。
「いちっ……」
「やっぱ……駄目だ」
「え……」
「無理……」
「一っ」
「ごめん、どっか行って」
(……何?)
一矢はお弁当だけを残してくるりと背を向けてあたしのクラスから去って行ってしまった。
あたしは膝をぺたんと張りつけたまま、身動きをとれずに手を伸ばしたまま、固まってしまった。
「ぷっ……みじめぇ」
「言っちゃかわいそうだよぉ」
「そういうあんたこそ顔笑ってんだけど」
「あはははぁー」
(……何なわけ、まさか……本当に)
心臓が、ドクンドクンと跳ねる。
一矢が丁寧に作ってくれたおいしいはずのお弁当も、味なんて感じられなかった。
「杏里……さっきはごめん、ちょっと……一緒に帰ろう? ね??」
(……ないよ)
いつもどおりじゃん、ほら。
「鞄持ってよ、めっちゃ笑われたんだけど……」
「ハイ……」
足をぶらぶらと、あたしはさせた。
「でもそこからは危ないから、降りて……何で下駄箱の上になんか乗ってるの?」
「受け止めて」
「えっ」
戸惑ってる一矢をしり目に、あたしはひょいとげた箱を降りた。
無理だよね。さっきのは偶然。運動は努力。
あたしはきっと嫌われてなんかいないんだ……うん、きっとね。
「おなか減ったあああああ!!! マック行こう」
「もちろん」
こころなしか一矢も上機嫌だし。
「全部一矢もちで」
「ハイ……」
……ほら、いつもと同じじゃん? ね?
なんだかんだで、あたしたちはマックで夕食を済ませてその後はまっすぐに家に帰った。
なんか用事があるから、遊べないとか一矢は言っていた。
「シャー芯ないから、コンビニ行ってくるー」
「ハイハイ気をつけて」
部屋着のまま、暗い道を歩く。眠さから、体がだるい。
とっとと買い物を済ませて帰ろう。そしてシャワーを浴びてひと眠り。
コンビニ付近から、若い声が聞こえる。
一人は見知らぬ女性の声。
もう一人は……。
「……一矢っ!?」
(何で女の人に腕組まれてるの……!?)
あたしは茫然とその場に立ち尽くした。
逃げることもできない。声もあげれない。
そのうち一矢があたしに気がついて、驚くように眼を見開いた。
それでもあたしは動けない。
「あ……杏里」
「…………っ」
(馬鹿だ、いまさら……)
「杏里っ!!!」
ようやく気が付いた。足も動いた。だから、逃げた。
「待って!! 杏里!!」
ようやく走りだして、そのあとを一矢の声が追ってきて。
「止まって」
声はあたしを制止することを望んでいるのに、今度は足が止まらなくて。
(仕方なくいてくれたのは……あたしなんかじゃないんだ)
「杏里っっ!!!」
(ハブられていたあたしに気を使って告白したんだ……一矢は……っ)
自分から一緒に居てなんて、言えないプライドばっか高いあたしだから。
いつだって、輪に入れずに遠目から見ているばっかの、そんなあたしだから……。
「バイバイ、一矢」
もういやだ、こんなの。
綺麗なサヨナラをしよう。もう一矢が無理をしなくていいように。
本当に好きな人に好きって、彼が言えるように。
「あのね、あたし好きだったよ? 本当は一矢が好きで甘えれるぐらい安心感抱いて……
本当すごく好きだった。だからもう」
「まって」
「ごめん……ね?」
それがあたしにできる唯一のお詫び。
早く立ち去らなければ、涙があふれ出そうで、もう一度くるりと背を向けて早足に歩きだそうとした。
「ストップ!!」
重力が、急に背中に持ってかれる。どうやら一矢に強引に足を止められたらしく、あたしは彼の腕の中に居た。
それを、そっとはがして、軽く一矢は自分のほうに向けた。
「杏里。僕は杏里が大好きだし、今の言葉は素直にうれしいよ?」
「嘘だっ」
「ああやっぱり……」
一矢が困惑した顔でため息をついた。
暗闇で表情は読み取りにくいはずなのに、それでもはっきり彼が冷や汗を描いているのは分かる。
「……僕は間違えたんだ」
「!!」
(……ほらね。やっぱり本当は……)
「ほら、やっぱりあたしなんか好きじゃなくて」
「ちがうっっ!!!!!」
肩が震えた。
普段の抑えたおっとりした声ではなくて、無理に声を張り上げたような感じだった。
実際、その言葉の後一矢はぜえぜえと息を吐いて、呼吸を整えていたし。
「好きだから……好きだからだよ……っ」
「じゃあ、なんで!!」
「信じてくれる?」
「何を」
「……実は僕の一族は……異性と交わることでフェロモンが出るんだ……」
「は?」
「本当ありえない話だよね……だから言いたくなかったんだよ……」、
露骨に赤面する一矢。あいた口をパクパクやるあたし。
「はあ? ナニソレ」
「ただ好きな人とするともらえる力もすごいんだけど……相手も疲れて行くし、こっちはもっと求めて行くんだ。
だから僕の一族は、たいていは本命以外で補充する。
だから、いつも異性に囲まれてるんだよ」
「…………」
「それが不安で……そんな穢れた状況に巻き込みたくなくて……杏里を遠ざけたの」
「てかそれってヤッ」
「わああああーー!! わーわー!!! 言わないでやめて杏里の口からそんな言葉聞きたくないから!!」
一矢が涙目になっている。
「最近の変化はそれだよね? ってことは誰かと」
「それはさっきの一族のお姉さん力もらって……」
「はああ!? それってヤッ」
「ってない!!!! だからお願いだから言わないで……っ!!!!」
「じゃあどういうことよ」
「ただキスしただけだよっ」
「だけっ!?」
カッと血が頭に上って、一矢を思い切り睨みつけた。
「ごめん……!!!」
「普通ほかの人とそんな事されたら切れるでしょ!?」
「だって杏里がカッコいい人が好きだって……」
「馬鹿でしょ?」
「キスって言ってもバードキスだよ!?」
「キスって時点でいやなの!!」
「許して杏里……っ!!! 出来心だよっ……杏里にカッコいいって言われたかったんだもん、ホレてもらいたかったんだもん……
普段の僕じゃ、無理だってわかったから……だけど杏里がほかの人のとこ行っちゃうの嫌で……だから」
「そんなのあたしだって一緒だから!!」
お互いの顔を見て赤くなる。
今、とてつもなくはずかしい。
それでも、今言わなきゃと思った。
あたしが素直にならないから、一矢は無理をして、こんなことになって
……本当なら、あたしが一番わかってあげなきゃいけない位置に居たのに。
不安にさせて、たぶん初めてだろうキスも、好きでもない相手にささげることにさせてしまった。
「こ、これからはあたしだけにしてよ! じゃないと別れるからね!!」
手が震える。言え。素直になれ杏里。
自分で自分に勇気を与える。
「あとっ……あたしが一番一矢をカッコ良くさせるのッ……」
――ねぇ、覚えてる? 初めて一矢としゃべった日。
『やりかえせばいいのに、どうしたの? 喧嘩したの? いつも一人泣いてるよね』
無神経なあたしはそう、一矢に声をかけた。
一矢の様子を眺めていた自分だって相当一人ぼっちだったのだけれど。
『だぁって……痛いの辛いから、かわいそうだよ、やり返したら……痛いもん……』
泣きじゃくりながら、一矢。
昔から、そういう奴だった。
あきれるほどのお人よしで、流されやすくて、いいかえせないヘタレでさ。
そのくせ顔だけは綺麗で、あたしが観察しだしたのは、見ていておもしろかったのもある。
だけどそのうち……惹かれてたんだと思う。
あまりにも昔すぎてきっかけは覚えてない。
一人の時より二人時のほうがきっと多かったし。
『優しいのね。杏里なら口もきかないよ、あんなのと。あわないからってかかわらないもん』
『それもカッコいいよ、杏里ちゃん』
『でもあんたとは一緒がいいな、ほかの人より性格よさそうだし』
『弱虫って笑わない?』
『さあ? でも無理にニコニコして、無理に偉そうにしてる人より杏里好きだよ?
やり返さないのってすごくかっこいいんだよ? 杏里無理だもん』
『…………』
『だからさ、友達になってあげる』
その時もやっぱりあたしは意地っ張りな言葉でしか、一矢を誘えなくて。
それでも、一矢は感じのよい頬笑みを浮かべてあたしの手を握ってくれた。
『うん、ずっとだよ……』
あの時から、一矢は常にそばに居た。
クラスが変わっても、なるべく休み時間は来てくれたし……幼稚園の頃のように、
あたしが直接喧嘩売られることもなくて一人になることもなくなって……
高校だって、本当はいいところの推薦を進められてたって知ってたよ。
だけど一矢は一緒に行きたい人がいるんで、と静かにいいきってくれた。
声をかけようとしていた時に、偶然聞いてしまったことだ。
テストでも、発表されない小テストは成績良かったらしいと、噂で聞いた。あたしに隠してたのだ。
そうでもしないと、同じ学校に進めないから。
「杏里が僕のこと好きだって、知ってたよ?」
「え」
一矢は真顔であたしの手をつないで言った。
暗いから、とあたしを送っていく気らしい。一矢の家は近いけど間逆の道なのにね。
「ただ照れてるだけってわかってたから……でも、やっぱりカッコいいって思ってもらいたくて……」
(なんか一矢がきらきらしてる……)
やっぱりマジで顔を見つめるのは無理で、あたしはそっぽを向いた。
「でももっと……好きになってほしくて……」
「あああ、あ、でもさ」
「ん?」
「体育すごかったけど、キス以上とかあたしとしたらどうなるの?」
「!?」
とっさに出たのは、からかうようなあほな言葉。
一矢は当然恥ずかしそうにほほを染めてる。
でも、そんな様子がいつもの一矢らしくて、ほっとしている部分もあったりして。
「試してみる?」
一矢が、小さな声で呟いた。
2人の掌が、一瞬で熱くなっていって……目を合わせないまま、強引に一矢に家に押し込まれた。
心臓がバクバク言って、苦しくて苦しくて……
あたしは玄関の窓越しに聞こえる一矢の足音を、聞こえなくなるまでしゃがみこんで聞いたんだ……。
その後の事は、いずれ話すかもしれない。
けれど、その日見た夢の中の一矢はいつも通りで、だけどやっぱりあたしはドキドキしていたんだ……。
fin
あとがき
この作品は数年ぶりに描いた漫画を文章に無理やり起こしたものです。
投稿先に合わせて少しいつもと違うタイプにしようとしたのですが
正直あまり変化がないものになってしまった気がします。
プライドに振り回される、人間づきあい下手な根は真面目なヒロインと
ヘタレだけど基本温厚な振り回され系ヒーローが描きたかったのです。
相手の気持優先な性格のヒーローが個人的に好きなので、こうなりました。
甘ったるい雰囲気を感じてもらえればいいのですが……!!
ところどころ描いてて恥ずかしくなりました笑