「田中さん、大丈夫?」
声をかけてくれたのは、誰だかわからない女子生徒。
放心状態のように座り込んだままだった恵那に、カバンとタオルを渡してくれた。
「……池田から、頼まれてきた」
「……え」
「アイツと同じ小学校な同級なのあたしだけだからさー……事情もわかってるから、気にしないで」
ポニーテールの彼女は苦笑しながら恵那をげた箱まで支えながら連れてってくれた。
周りの視線も、もうないけれど、その代わりに別のものが胸をちくちく痛めていく。この子は、池田君の事情を知っている。
自分には言わなかったのに、言わないまま去っていったのに。
「池田は悪いやつじゃないよ」
知ってる。悪い奴なら恵那をかばうなんて事はしない。
しらばっくれてでも、保身に走るやつだっている。
それなのに周りに引かれることをわかりつつ喧嘩に応じたのは、おもいあがりでなければ恵那のためだ。
誰をかばうにもそうしていたかもしれない。
それぐらいの考えは浮かべることができるけれど、少なくとも穢してもどうでもいい存在ではなかったのだからそれだけでいい。
どうでもいいから選んだわけではない、という何よりの証だ。
友達と楽しげに笑う姿を、何度も何度も見かけた。
(……もうあの姿は見れないのかな……)
助けてもらえてよかったなんて喜んでみたものの、要は自分がちゃんとしてれば池田はこんな目に合わずに済んだのだ。j
自分のせいだ。
悲鳴でも上げるか、ブザーでも鳴らすぐらい、非力な女子でもできる事だろうに。
なんて、情けない自分。恵那なんかよりも、池田はたくさんのものを今回で失ったのではないかと思うとぞっとしてきた。
今回の悪の根源は襲撃してきた奴らだ。それは冷静に見てみれば火を見るよりも明らか。
それでもスイッチになってしまったのはきっと自分。
それならばせめて、自分は笑って過ごそう。
つまらなそうにしていれば、彼が身を呈してして守った意味がなくなってしまう。
人づきあいの上手い彼ならば、きっとまたすぐ居場所を見つけるだろうし、学校外での友人だっているだろう。
一人ぼっちになるわけではない。
……自分に対してのいいわけを重ねる事で、納得させるしかなかった。
もう、元には戻れないのだから。
「恵那」
帰り道とぼとぼと歩いていると、己の名を呼ぶ声がした。ハスキーな女の子の声。
「……さゆちゃん」
「……ごめん」
突然の謝罪に、恵那は目を丸くするしかなかった。
距離ができていた自覚はあったが、何かしらもめ事を起こしたわけじゃないから、仕方がないとどこかであきらめていたからだ。
「……池田の事、よくわからないまま知り合いにしちゃって……なんか、本人に聞いた感じかかわらないほうがよかったんだろうねって……アイツ本人は普通の男子なんだけど……ちょっとね」
「……何で謝るの?」
「え?」
「……私は、池田君と仲良くなれて良かったよ。……結果はまあ、こんなことになっちゃったけど。新鮮だったし……」
「恵那」
どこか、さtyを受け入れるような言葉を並べる事で引き戻そうとしている自分に気が付いた。
何故去っていかれかけたかわからない。けれどさゆは別件で恵那に謝ってきている。
それを受け入れれば、仲は修正されるのではないか。
「楽しかった……よ」
ツウ、と頬ぬらす一筋の涙に、足の力が抜けて行く。
「なんで……こんなことになっちゃったのかな……」
「……恵那……」
自分が他の子のように社交的であれば。男の子慣れていただろうし、こんな悩みも抱かなかっただろうに。
好きな人と、望むがままに付き合えたかもしれないのに。
いずれ失うものだからと、割り切って池田との関係も「思い出」として割り切れたかもしれないのに。
少ししかない経験の中では、二人の出会いは大きすぎた。
濃いことなんてしていないと否定を突き付けられば言い返せないような、ごく普通の時価なんかも知れない。
それでも、その中で感じた想いは……。
「なんか、つらいね……」
「恵那」
「一気につらいが押し寄せて、もうわけわかんないよ……珍しくいい感じだったから、はしゃいで無理しすぎたのかな……
釣り合わない世界に強引に割り込んだから? いきなり幸せになる人は反動で下に落ちる人が多いケレエド……当人は、その場にいるのが当たり前に思えちゃうんだね。
それで、そこに入れる幸福さも、わかんな……っく」
さゆのように、戻って来る大切なものもあるけれど。
少しもめても戻れる方が素敵、とは言うけれど……。
「私……自信ないの。本当はね、モデルなんて……出来る自信ないから、有名モデルと同じような化粧品とか使ってどうにかしようとしてた……
そうすれば同じものになれる気がして」
好きな物のまねなら、それはそれで自分の個性かもしれない。
けれども恵那は自己主張を無視して他の意見ばかり汲み取った。
元々周りの目を気にする立ちではあったけれど、一度認められてしまったがゆえに、恐怖心からこうなってしまったのだと思う。
「……モデル、辞退する」
人前で、堂々と立てる自信などない。
憧れてもらえるような身の丈でもない。
一瞬、話を聞いて浮かんだあのまぶしい世界は、キラキラしていたけれど……。
「……恵那」
さゆの目が丸く見開いた。
そしてしばらくしてゆっくりと瞼を落とした。彼女は眉根を軽く寄せて複雑な表情を浮かべた。
「本当にそれでいいの?」
本当は、うまく舞台を成功させて真里を喜ばせ、認めてもらいたい。
けれど。
「……身の丈に合わないな役者が居たら、成功する部隊も成功しないでしょう?」
「お金も、何もからまずに、相手方から選んだんだからえ名で納得した上だと思うんだけど」
「きっと、彼女は私に夢を見てる。出来る子だと思い込んでるだけ……だから」
「……彼女が、選んでくれたのに? それこそ彼女を勘違いした目で見てるんじゃないの? 彼女が自分の作品にあうと思ってるなら、彼女にとってあんたが理想。
それいいじゃん。駄目なの? そりゃあ、出会って浅いから、多少お互い過剰な目で見てる部分とかあるかもだけど」
正論すぎて、愛想笑いしかできない。
「……出たいんでしょ? 恵那はいつも裏方に居る子だったけれど誰よりも熱心に頑張ってたし、瞳だって常にキラキラしてて……」
「…………」
「別にプロのモデルになるわけじゃなくても、どういう風に着ればよくみえるかとか、恵那が普通だと思うなら、普通の子が舞台映えするようになれる方法を学べる思う。
……まあ、言う方は楽なんだけど。完成品を見て、拍手を送れば丸く収まる側の意見だもんね」
「……本当は、……参加したい」
優柔不断な口から洩れた、本音。
何だかんだ言い訳しても、理由を付けて自分じゃ駄目だと巻所を抑えても、好きな世界に招待されてしまえば、やっぱり飛び込んでいきたくなるものなのだ。
釣り合わないとか、そんな気持ちよりも、混ざりたい、わいわいやりたいとか、自分の欲望の方が強く推し出てしまい、抑えが効かない。
「保険をかけて影に隠れてばかりじゃ上には登れないよ。安定はするか漏れしないけれどさあ、保険があるって安心感でゆるんじゃわない?」
それは、今までの人間関係についての彼女の不満に聞こえた。
自分を保険にして、自分の性格を諦めていた、恵那への不満。
それでも彼女は戻ってきて、その気持ちを遠回しながら言ってくれた。
「ありがとう、さゆちゃん」
保険を踏み台に、逃げ口にするんじゃなく、どうせならそれを本当の意味の保険にして、喜びを伝えたい。
それを積み重ねて、さゆとのきずなもきつくしていきたい。
だから。
決意を、決めた。
「……私……やっぱり、好きな格好もしたいし、みんなと仲良くもオシャレもしたいし……好きな世界を目指したい。そしてできる事なら……」
我儘だと、わかっていても。
「池田君ともまた普通にでいいから一緒に居たい……」
あの日常を、もう一度。
今度は自分から、手を差し出したい。
その時は、ちゃんと対等にいたいから。
あれから数日。池田は学校へ顔を出すことはなかった。
不登校というよりは、どうも教師側も黙認している感じで、この前職員室前で相談事を教師たちが話してるのを聞いた。
内容をまとめると、騒ぎになりすぎて在籍するにはきついんじゃないかとか、
出席日数やない芯には問題ないから良周りの熱が引くまで教育委員会がやってるフリースクールあたりで我慢してもらうべきかとか、そんかものだ。本人自体は元気の用で、ひとまず安心したものの、
あの制服から浮いた金髪が見れないだけで、なんだか気分がそわそわした。
見かけないだけで、こんなにも寂しいのか。
伝えたい言葉だけちり積もって、携帯には保存だけして送信していないメールがたまっていった。
些細な一言も、かわせないなんて。
何を書き始めにしたらいいのかわからずに、何度も悩んで電話をかけてみてもつながらないしで、恵那は途方にくれるしかなかった。
曇り空を見上げれば、恵那の代わりに雨が鳴いてくれた。
グラウンドのぬかるんだ泥が、まるで自分のぐちゃぐちゃな感情のように思えた。
転校してしまったらどうしようか。ありえる話だ。
わざわざ居心地の悪くなった場所に残る必要はない。食い止める何かがあればいいけれど、彼と仲良かった男子はすでに池田を話題にさえ上げずに廊下で大声で笑っている。
まるで最初からいなかったような、そんな扱いに何故か恵那は怒りを感じていた。
明らかにあの騒動の根源は乗り込んできた屋yつらだろうし、あの金髪ピアスだって、喧嘩自体は強いはずの、寧ろ素行は悪い嫌われ者だったはずだ。
池田に縁すらない、そんな奴を、彼は盾に使おうともせずに向かっていったのだから、もうすこし気にしたっていいのではないのか。
そりゃ喧嘩はいけない。暴力だとか、もってのほかだ。
それでも、あの場で誰かが動かなければ被害はもっと広がっていたし、池田は生徒には手を上げていない。
なのに、あんまりだ。
(……あの人たちは、池田君を狙ってたみたいだけれど……学生にはとてもじゃないけれど見えなかったし……)
そんな学校の様子を見ているだけで気分が落ちる。唇をかみしめながら、強く結んだ。
いっそここで叫んでしまいたい。爆発したい。けれどそんな事を、池田は望んでいないだろう。
折角守った恵那が自分のせいで苦痛な生活を過ごしていると知ったら、きっと彼は悲しむ。
作り笑顔なんて作れるはずもないけれど、せめて普段通り過ごす事ぐらいしか、今の恵那にはできることはなかった。
ひたすらにノートを取って、たまにクラスメイトと会話を交わす。
だんだん会話も慣れてきて、しだいにとある子から趣味が近いからと友人を紹介、なんて広がり方もするようになってきた。
雑談的メールにも、多少はうまく返し話題を広げれるようにもなった。
……それでも、池田が居ないのはつまらない。
彼女らと居るのが味気ないわけではない。
寧ろ刺激があって一生懸命にいろいろな知識を得たりしてはしているだろう。
それでもどこかで、彼を求めてる。何かをしでかした時に、フォローしてくれる手を。
そりゃあ、さゆ達もいるし、一人ぼっちではないけれど、池田のt拉致位置になるような男をさらってきたところで代用は聞かないもので。
そもそも、まだ男子には不慣れだ。
女子には「恵那ちゃん」なんて呼ばれる事も増えて、ちょっとムズかゆい日々を送っている。
それでも池田の事は誰も触れない。まるで禁句のように。
そして、今日は真里の学校での打ち合わせに行く日だ。
メイクはいつも通りで、化粧落としを持参。
きっと相手方も用意しているだろうけれど、やはり肌質というものはあるもので、荒れてしまえば終わりだから念には念を入れて準備した。
新しい友人からついでに買ってきてと催促されたのはこの前憂佳にもらったチョコレート屋のセットで、今度は自分が皆と食べれるんだと思うと胸が躍った。
お土産として一緒に食べよう、なんてことも珍しく恵那の口から出るぐらいに。
前へ進まなきゃと感じながら、禍根見引っ張られつつ、恵那は家を出た。
黒猫のポシャットを揺らし、灰色の小花が羅のチュニックに黄色のパーカー。下は黒いブーツカットのズボンに、下は甘茶いろのショートブーツ。脱ぎやすさを考えて考えたコーディネート。黒猫の横にはキーホルダーの花の中に収めたエコバックが付いている。ピンク色のそれは、揺れるたびにキラキラと深緑のチェーンっを光らせて血背手とても可愛い。何に使う買ってもちろん友人や家族へのお土産入れ。
真里達への差し入れのお菓子は、別の袋に入れてある。
見慣れた道を歩きながら、駅へ向かう。
途中目に入ったマルチーズがすごくカわいくて見つめていたら視線を前に戻したら絵電柱が前にあったりもしたケレたけれど無事に到着。
危うく顔を強打するところだった。危ない。
「……れ……?」
ふと足を止めた。視界の中に、見慣れた顔があったからだ。
「……池田……君?」
っこえぬように小さな声で呟いた。存在を消したくて一歩下がる。
間違いない、声を出して笑っている彼は本人そのものだ。
(……よかった、元気そう……)
彼の表情だけ見ていればそう思えた。
けれども周囲を見渡せば、柄の悪そうな女性。むき出しの二の腕は筋肉質で、メイクもキツメ。
しばらく足を動かせないでいると彼女のほかに数人やってきた。みんな赤やメッシュなど派手な頭髪をして、肉体派に見える男女数名。
それにひるむことなく冷静に何かを伝えて行く池田の図が、何とも不自然に見えて、声が出なかった。
絡まれているようには見えない。寧ろ慕われているような、頼られているような雰囲気さえ醸し出している。
彼らはどう見ても池田より年上に見える。
(……どういうこと?)
そして彼らはボロボロなビルに入っていき、姿を消した。池田もその中に消えた。
そのビルには、どこかで聞いた名前の看板が剥げた字で掲げられていた。
「恵那ちゃん久しぶりー」
上機嫌に真里に出迎えられても、恵那の気分は一向に上がりはしなかった。
さっき見た情景がまぶたに焼けついて消えてくれないのだ。
(……池田君は何者なの……?)
知れば知るほど、ますますわけがわからなくなっていく。
あんな人たちに、縋れる彼は一体どんな人物なのか。想像しようがない。
「こんにちは」
「手に持ってる袋はお菓子だよね? そうにきまってるよね? だってこの袋私の好きなメイプルシューがあるお店のだもん」
「ブログでよく食べてたから、いいかなと」
「見てたの? じゃあコメントくれればよかったのに」
それは、なんとなく名乗り出るのが恥ずかしかったからで、匿名で応援メッセージは送信してあったりする。
やっぱり彼女らの居る世界はきらびやかに見えて、それでいて憧れたり、身を置いてみたいと願ったりするのだ。
第一まだこちらが敬語でしゃべっている段階で押し込むように自分をアピールするのもなんだか差し出がましい気がしたし。
きっと真里は誰にでもフレンドリーに接しているだろうから、い取りで舞い上がっていたら恥ずかしいし。
実際嬉しいから、のぼせそうになるけれど。
幾ら相手側から誘われたとはいえ、相手のプライベートにまでかかわれるだけで十分嬉しい。
彼女の高校は洋風の、綺麗な建物だった。
写真では何度か目にした事があるものの、キャラメル色と白をランダムに混ぜ合わせたレンガでできた校舎は、とても上品な雰囲気を醸し出していた。近くにある綺麗な花壇からカオル甘い匂いも、凄く安らぐ。季節の花々に負けないぐらい、明るく笑う生徒達がそこら中を歩いている。
セピア色の花壇も、やはりレンガだ。
(……まぶしい……)
それは高校生だから、なんてものではなく、好きなものを思い切り習うことへの楽しさからくるものだろう。
「可愛いでしょ? 此処の制服。卒業生デザインなんだよね」
「凄くいいです、シンプルな深い紺色のブレザーに茜色の細い紐リボン……
スカートの丈も自由で……シャツは白で、王道ですけどボタンが金色でキラキラしてて……立体的な四角ってのが特に好みです……!!」
「恵那ちゃん、テンション急に上がったし」
「あ、は……ごめんなさい」
「あやまんなくていいよ、私も制服気に入ってるからね。
義姉の卒業写真見たらこの学校行きたくなっちゃったのが此処を選んだきっかけだから。
男子もネクタイだけど、下の方に金の横ラインが太めにひいてあってカッコイイよ」
「義姉さんも卒業生……」
「って言っても別の科なんだけどね。制服自体は一緒なんだ。義姉はメカニック科だからこっちの知識はないよー。
まあ、ポケットについてる科別のピンをつけてるから。薔薇の模様のね。被服は赤薔薇だよ」
そう言えば、彼女の胸には小さな赤薔薇が添えられている。
てっきりお洒落でしてるのかと思ったけれど、近くを通る生徒も同じものを胸に刺している。
「薔薇園も一応あるんだけど、それは農業科が管理してるんだよ。すっごい綺麗なの。
教室にも飾ってくれるんだけどそれはもう、美しいのなんのって」
真里のお団子にまとめた髪があまりのはしゃぎように揺れる。
そこで真里にストップが入る。同じ学校の女子生徒から、早く計画説明してあげろという催促だ。
「あーごめんごめん。ついね。自分が憧れたものに同調されちゃうと……テンションあがっちゃうんだよねー」
「わかるけどさ、ほらそこの恵那ちゃん?」
「はいっ!」
女子生徒の疑問符付きの呼び声に、背筋をピンとして声をふるえ上げた。
彼女は苦笑しながら、緊張しすぎだよと呟いた。
「デザインには貴女ぴったりだから、体系測らせて」
「え? 前サイズメールで真里さんに……」
「そりゃそうだけれど、変動するし、女子の自称はあてにならないから、ほら、メジャーもあるし教室来てよ。真里も」
「でっちん、ハキハキ言いすぎ。得奈ちゃん緊張してるんだからもっと緩―くよ」
「別にきつくしてないんだから良いじゃんよ。他は男子何だから私が声かけなきゃダメっしょ? それとも何、アイツらに諮らせてよかった?」
「え」会合
流石に初対面の高校生の男子に脱がされ、サイズを測られると思うとそれはもう恐怖以上の何物でもない。
恵那でなくとも、嫌がるシチュレーションだろう。
おびえた目をしたまま彼女を見ると、ようやくほころぶように笑ってくれた。
「冗談だよ、恵那ちゃん。私だって男にせっかくのチャンス渡すのやだし? 貴重な女子中学生の下着姿だってのに」
「え!?」
まさか。
「冗談だよ」
「そりゃ、でっちんは男だもん、下着姿見たいよねぇ」
今度はくすくすと笑いながら真里。
「ええ!?」
彼女の豊かな胸はシリコンなのか。それともパット詰め放題の結果なのか。
「ごめん、私も冗談だよ?」
「真里ちゃん……!! あ、真里さん」
「ちゃんでいいよ? ああー面白い。恵那ちゃん一々表情に想ってることが出るし、目が潤むんだもん。子犬見たい―かわいい」
「……かわいくないです」
「飼いたいなあ、ほしい」
「……ご飯高尽きますよ? チョコばっか食べるけどいいですか」
「あら、意外と言い返せるんだ」
「あ」
自分でも驚いた。いつの間に冗談返しできるようになったのだろう。
真里と出会ったばかりのころは、きっとそんな余裕も能力もなかったはずだ。
池田と居る時も、言いたいことをいっぱいっぱいに伝えようと、ドキドキしていた。
(……もしかして、人とはなれる大きさを知って、すこしは成長できたのかな……メールでいっぱい練習してたから)
楽しい会話を心がけていたら、自然と身についたのかと思うと少し嬉しかった。
もし、今池田と会えれば彼は前より笑顔を見せてくれるだろうか。
……駅で見た、あの光景を思い出して口の中が苦くなったけれど、想像したその光景は、やはりほしくてたまらなかった。
コツコツと積み上げる前に、下準備もせずに飛び込むことを考えて戸惑っていた自分。
少しだけ、大きくなれたと思うのに、それを一番自慢したい相手がそばにいない。
「……教室は、どこですか?」
気持ちを切り替えよう。考えていても気分がめいるだけだ。
自分ではどうにでもできない現実に居悩んだ時は、他のところを磨いているほうがまだ利益がある。
きっと今を大切にしていれば、再度彼としゃべるチャンスがあるときは魅力的になれているかもしれないし。
―「何か恵那、綺麗になったね、」
そんな言葉がポンと浮かんで頭を横にを振った。
「二階だけど……なにしてるの?」
「あ、なんか蚊が頭に止まっちゃってうっとおしくて」
「季節違うけど」
「……う」
「まあ、とりあえずついてきて」
真里の言うとおりに後ろにひっついて階段を目指し歩いて行く。通り過ぎる生徒はやっぱりみんな大人びて見えた。
当然のごとく垢ぬけている彼らを、しばし見つめてしまうときもあった。来客用のスリッパは、滑り止めの布が破れていたせいで転びかけたけれど、それだけでいい理の激しい学校なのだろう。
体験入学のパンフレットは、県外の恵那の中学にも置いてあったぐらいだ。
やはりショーのためだろう。布を大量に持って歩く生徒だとか、輪になって座り込みながらデザイン画を見て討論している生徒を見かけた。
「どこも今衣装合わせばっかで、騒がしいと思うけれど気にしないでね」
校内の熱気はきっと窓を閉め切ってるからだけではないだろう。まるで此処だけ夏場のように、皆汗をかきながら熱弁をふるっていた。
それでも誰もが苦痛な表情など浮かべずそれどころか嬉しそうに笑っているのは、やはり当然というか。
「私はどんな服を着るんですか?」
「どんなのかなー?」
「決まってないんですか?」
「ううん、決まってるんだけど、それはドレスだけ。技術試験のだから、シンプルなものだと思う」
そして、ちらりと他の生徒を見て
「とはいってもみんな気合満々で、自主的に凝ったことやってたりするんだけどね。手品をやるきでいる人もいるみたいよー?」
と真里は笑った。タンタントトンと上機嫌なリズムを踏んで階段を上がる間にも、壁にあるポスターなどは、鮮やかで若々しいパワーがあふれて見えた。
実際は、恵那の方若いのだけれど、それでも思い思いの世界をぶつけたと「作品」」たちはどれも魅力的に見えた。
「クリームベージュを基調にしたシンプルなワンピースに木綿レースを使おうと思ってるんだけど……あとボタン。
赤と白のワンピースも考えたんだけど、厚手になりそうだったから、やめたよ。ライト暑いしね……」
言葉だけでは予想ができない。
「エクステとか、いじらせてもらっていいかな?」
「あ、はい」
「もちろん事後は元に戻すし、ヘアアレンジ得意な子に頼むから。……男子だけど、怖がる必要ないからね」
「……男の人……」
「美容関係志望だから、変なことしないしない。自分で未来つぶすだけだもんえ、もん、そんなことするのは。
それに護衛もいるし、ショーの準備する間は」
「護衛?」
そんなに物騒なショーなのだろうか。
まあ、真里目当ての人は来るだろうし、他のファッション雑誌の編集者だって、服飾学校のネタは欲しいに決まってる。
此処には確か別の読者モデルもいたはずだ。
「って言っても他の科の運動部ばっかだけどね」
「あー……」
「その代わり食べ物で礼金払うっていう。彼等にとって食べ物は大事な栄養素だからね。私達にはビタミンだけど」
「……私もあまり食べちゃだめですかね、サイズ変わると困るから……」
本番で歩いている間に火り、なんてのは情けなすぎるし、制作にかかわった人に申し訳なさすぎる。
そもそもモデル歩きなんてできるのだろうか。まあ、ロング丈なら足は見えないしごまかしがきくかもしれないけれど……。
ショーのビデオは家で何度も見直したし、多少のコツはつかんでいるつもりではいるけれど。
「寧ろやせちゃったら困るよー。肩幅が縮んだら、ドレスがよれちゃう。普段通りで良いと思うよ?
そりゃ、肌に良いものを食べてほしくはあるけれど、怪我しないようにとか」
「はあ」
「終わったら打ち上げあるしそれまでの我慢だって。ね?」
(……打ち上げ私も参加していいんだ……というかすること前提で真里ちゃん話進めてるよね……?)
そんな事実に、思わず口元ががゆるむ。
オシャレな憧れ高校生達と一緒に食事ができるなんて、なんて幸せなのだろうか。
「ほら、此処が私達が使用許可貰ってる教室。班ごとにひと教室貸し切りだから、くつろいでね。
でっちん、紙コップ人数分あるよね? 飲み物配って」
「はいはい」
テキパキと指示をして残りの男子にも恵那を紹介して、カーテンを引く。
そして真里はカメラを取り出してきた。何をするのだろうかと不安に思ってみていると、がちがちにかまたまっている恵那の様子にくすりと声を漏らした。
少し恥ずかしくて彼女から眼をそらす。
きれいなクリーム色のの壁に、きっちりひかれた淡いピンクのカーテン。
木の床は、汚れのないピカピカだもの。まるで優雅な洋館のような雰囲気。
そこにいる、外部者の自分。
(……でも、いつかはこの学校に……)
そしてはとばる妄想。
「真顔で写真撮らせてもらうけどいい?」
「え」
つい、恵那は間抜けな声を上げた。
「資料に居るんだよね。まあ、触ってみないと肌質とかわかんないし、あれだけど……
それでも、似合いう色とか最終的に決めるのには助かるし」
「……あ、はい」
そういえば、まだ一度もしっかりとした写真を彼女達に渡していない。
モデルとしての顔見せ程度には、あの雑誌のスナップでもよかったかも知れないがエントリー用紙に提出するには、さすがにまずいだろう。
「これ、着てみて。少し小さめのMサイズだから、スタイるくっきり出ると思う」
「え」
それは恥ずかしい。自分で言うのもなんだけれど、スタイルには自信がない。
「大丈夫、一般の人しかエントリーできないから、コレ。プロを使ったら卑怯でしょ?」
「それでも私胸ないし」
「盛るのよ」
「……上げ底ですよね、それって」
「当然でしょ? まあ、服のデザインによりけりだけれど。胸がないからこそよく映える服装もあるからねー。
邪魔なんだよね、時々。デザインが描くときはくびればっか強調しちゃうな、私は。やっぱほしいもん、くびれ」
「くびれもないですっ」
「だからそれをあるように見せるのが仕事なんだってば」
なかなかひどい事を言う。
真里は実は毒舌なのかもしれない。
たんに大好きな服のこととなって口のストッパーが外れているだけなのかもしれないけれど。
自分の子ダリのある部分を熱く語ってしまえば、相手の気持ちを気にしてなど入れないぐらい興奮してしまうものだ。
恵那の場合は、周りの目を気にしすぎて自我を抑えてしまったりする傾向にあるけれども、それでもカーディガンは趣味に走った。
(……お花の形のパステルカラーのプラスチックボタン、帰り探していこう)
いっそ、趣味に走ってアレンジしてしまえ。教師に怒られたら普段着に回せばいいだけのことだ。
ボタン糸ぐらいなら別にどうってことないの出費だ。
「何色が好き? 何色でも映えそうだけれど」
「え、カラフル……」
「……一番困る答えだ……そんなにたくさん布用意できないし、質感統一するとするならだいぶ大変なんだけれど、ソレ……ちょい無理」
「……そう言われても、自分に何色が似合うからわかんないんで……あえて言うなら雑巾か泥色……?」
「もっと華やかなさあ……色にしてほしいかな……白とか、うん、恵那ちゃん城にあうよ。白にしなよ。決定、白ね」
否定しようがないではないか。誇張するのが不安ではあるものの、先ほどの言葉を信じて恵那はそれを承諾した。
「まぶしいと思うけれど、我慢してね」
「ライト当たるんですよね……」
「いろんな色のがね」
考えるだけで目がチカチカする。浴びた瞬間立ちくらみを起こしてしまわないか、今から心配になってきた。
ただでさえ、舞台に立つことが不安なのに。
「写真のシャッターもあるねー当然」
「……え」
「大丈夫、モデルの名前公表しないから。学校内の関係者しか、本名提示はないから個人情報がネットに漏れるとかそういうのはないよ。安心して」
そこを心配してるわけじゃなくて。
(それを、評価されたりするわけだよね、足引っ張ったりしないかな)
だからといって、この前のように無理に肌をいじっても彼女もきっとそれを否定するだろう。
プリクラのように自分で加工することはできないし、そもそもいじってしまえば評価対象としては正当なものにはならない。
「あの」
「今からのモデル登録キャンセルは受け付けないよ? 恵那ちゃん」
「……ハイ」
鷹のような目で睨まれてしまえば、それ以上何も言えない。
真里ははな歌を歌いながら恵那に黒いワンピースを押し付けて、後ろを向いて何か描き始めた。イメージ画かなにかだろうか。
服を脱いでいき、ワンピースを着ようとして、頭が服の中に迷子になった。
そして声を出そうにももごもごとしかできなくて、暗闇の中助けを求めた。
すると、布を通りぬいけるような感触がして、手のひらに硬い何かが当たった。
その瞬間、すぽんと頭がワンピースから出た。首元でマフラーのように緩く固まっている状態で、ありえない相手と目があった。
池田正人。
ガラス越しではあるものの、明らかに本人。
すぐに目をそらし、ガバッと残りの布をおろすと、仕切りのカーテンの中に入って丸まった。
(何でいるの!?)
見間違いだと思いたい。
そうだ、きっと彼の事を思うあまりの幻覚だ。
遠めだったし、何よりここは得奈たちの住む場所からは大分離れた県外。
わざわざここに来るメリットは、彼にはないはずだ。
遊びに来ているにしても、何故この学校にという疑問がまず出てくる。
ショーのモデルは、女性限定とと噂に聞いた。
まさか女装でもして参加するわけじゃあるまいし……ネタとして女装するには向いていないし、真剣にされてもそれはそれで違反だろう。
そう真剣に考えてから、恵那は大きなため息をついて近くにあった木製の椅子に滑るようにもたれかかった。
どこにでもある、学校用の軽いその椅子はいとも簡単にひっくり返り、恵那は無残にも壁にたたきつけられた。
幸い、低い位置からの落下のため痛みはないに近いが、ワンピースの布地が居たんでないかという事がきがかかりだった。
もし破れていたら、弁償だろうか。高かったらどうしようか。
「……大丈夫? 恵那ちゃん。立てる?」
「真里ちゃん……大丈夫……です」
ぐったり。
伸ばされた手をつかむ力もない。それは体調拾うというよりは、単なる気疲れ。
「それ安物だし、揚げるか乱心して。なんだったらリメイクしてあげようか? あまりもののボタンや紐もも、あるし。
結構いいレースの端っことかもあるんだよ」
必死に記事をチェックする恵那をみて、真里は苦笑した。
心が読まれてしまったのと、貧乏くさい行動を取ってみっともない姿を見せてしまった恥ずかしさから、顔がボッと熱くなる。
「何だったら自分でやってく?」
「……でも、真里ちゃんにしてもらった方が可愛いのになるし」
「最初から好みにできるわけじゃないし、これ何枚もあるから。予備の貰ってくるし一緒にやろうか?
一枚ぐらいならもらえるよ。大量発注だから、何枚かタダなようなもんだし」
にこやかにカメラを出して、恵那にポーズを催促しだす真里はとても楽しげだった、
「真里―まだ?」
一緒に階段を上がった女子の声。
「ごめーん、でっちん。急ぐから」
「早くしてよー、男子暇してるし、挙句の果てにゲーム始めちゃったよ」
「せめてファッション雑誌渡しておいてよ……」
「読み飽きたってさ」
「ごめんなさい……!!!」
声がひっくり返るおもいでとっさに恵那は謝った。
足かせにはなりたくないと誓ったはずなのに。スタートにも立たぬ前から、こんな調子じゃやってられない。
「恵那ちゃんは謝んないで、可愛いパンツ見せてもらったから」
「!!」
「クマちゃんなんて初々しいねー」
(……みられた……)
まさか……。
「大丈夫、男子はちょうどコンビニに出てたから」
……の、自体は逃れたようだ。
「どうしたの? 涙目で」
真里の声4.思い出したのは池田らしき彼の姿。
普段着のパーカーにズボンで、どこにでもいる普通の服装。
色や柄までは覚えていないけれど、金髪というだけで、そう見えるぐらい自分の頭は池田でいっぱいなのかと思うと罪悪感すらわいてきた。
代用品。
ただ、彼女よけに付き合い始めた仲だった。
きっと特別な施しも受け居ていない。
それなのに、こんないっぽうてきにしつこく執着している自分は、なんて気持ち悪い人なのだろう。
どこでスイッチが入ったかは分からない。
気持ちが緩みだして、それなのによく見せたいと思うようになって、いつしか虜になった。
説明できないぐらい、どうしてこうなったかわからない状態で、どう行動するべきか考える前に感情が暴走しそうになってしまいそうで、会いたいのに合うのが怖い。
何か頓珍漢な事を言って、悲しい顔をさせないだろうか。些細な事で、さらに傷つけやしないだろうか。
そんな事ばかり、考えている。
感情を向けて、会ってすらないのに、ぶつけたい事だけがたまっていく。
上手く表現できないイライラで、自分に嫌気がさす。
その、繰り返し。楽しくなんかないはずなのに、なぜだかまた会う事を求めている。
早く会いたい。
けれど、きっと出会えば出会うほど、感情も積もって、切ないだろう。
「……はい、撮影終わり」
冷たい感触。
気が付いたら、肩の上には真里の手が置かれていた。
どうやら、先程の冷たさは、彼女の指にはめられたリングのものだったようだ。
「不安?」
「……あ」
「……誰でもそうだよ。駄目になるという結果は、簡単に作れるし、わかりやすい工程も用意されているけれど、
良い方向への道は、人それぞれで複雑にできてるから、見つけにくいの」
何を指して言ってるのかは分からないけれど、まるでそれは恵那の想いを励ましているように思えた。
「できなくてもいいの。で着そうな気がするときにでも、できるようになろうとしていけば、いずれ少しは結果出てくるの。
気が載らない時や自信が持てないときは、勝手に\考えも暗くなるから、優先順位を後ろにやっても良いの」
「……本音を伝える事も?」
何を、彼女の言葉に重ねているのだろう。
何を求めているのだろう。
彼女は何も知らないというのに。
「その本音が一番、恵那ちゃんの伝えたい想いに近い形で伝わる状況まで、待ってもいいんじゃない?
いざとなれば、自分から、そういう状況を作るように積み重ねてけばいいの」
簡単なようで、難しい事を言う。
年齢の差以上にきっと、彼女とは経験の差がある。
ずっと背を向けて歩いてきた人間関係なうえに、一番最上級のものを相手に求めようとしているのだから、そう簡単に手に入るようにはならないだろう。
普通の女の子でさえ、相談したり迷って手に言えるゴールを簡単に手にできるとは思えない。ただでさえ、不器用なのに。
恵まれていたのだと思う。方親でも食っていけて、近所と目盛ることも目立つこともなく、大きないじめも受けずに生きてこれたのは、大げさにいえば奇跡。
よくいえば、回りに恵まれていたという事。
その事実はとても良い事だけれど、自分がもっとがっついていればまた違った今があったのかと思うと、もったいない気もする。
「でっちん。男子入れてやってー」
「はあ~い」
ゆるい返事。それと同時にドアを開ける音と走り込んでくるような足音。
着替え終えてカーテンを引けば、そこにはおしゃれな男子二人。
さすが高校生なだけあって同級生より体系がしっかりしている。
「おー、見たことある。この子」
長い前髪を横に流した黒髪の男子が言った。
「……あー、俺もあるわ」
もう栗色の髪をアシメんトリーに切った短い髪の男子。
自分より年上の男性を、男子とくくるには抵抗があるけれど。
「田中恵那です」
「うん、名前も知ってる」
「そもそも真里が恵那ちゃん絵奈ちゃん恵那しまくってるし。最近」
「え」
意外な事実に、思わず横に立っていた真里を見た。
「……ごめん、恵那ちゃんに着せた衣服、出会った時から浮かびまくって仕方ないの……で、はしゃいじゃって……ごめんね。
すっごい好みの外見なんだよね。……柔らかい雰囲気とか、小柄な体系とか。可愛い」会合
そんなほほを染めながら言われると、こっちまで照れてしまう。
「……期待はずれな人が着てごめんなさい……」
「期待も何もほぼ可愛い子可愛い子好みしか言ってなかったからどんな子か想像しようがなかったんだけどね」
「ちょっとばらさないでよでっちん! 馬鹿あ!!」
お世辞だとしても、気持ちがうずうずしてくる。
ほめられてわるいきはしないけれど、その言葉を発しているのが憧れの真里で、それも自分のいないところで騒いでたなんて、あまりにも自分にはもったいない。
「まあ可愛いは可愛いでもいじれる可愛さだもんねー。真里なんて小学生のころ眉毛もまつ毛も濃いからひどかったよね」
「あああああ!! ばらさないでよ、ぼかして伝えたのに」
「いいじゃん、それだけ短時間でここまで来たって言うのは、他の人の支えになるよ?」
彼女の言ってる事はもっともだ。
最初から遠い世界で泣く、近い世界から階段を上がっていったという相手の方が、親しみも持てるし頑張ればそうなれるという希望のタネにもなる。
事実、恵那はそう感じたし。
「秘密だからね、お願いね、恵那ちゃん」
縋るように祈願してくる真里は、どこにでもいる女の子に見えた。
思わず、恵那が微笑を浮かべているとさらに半泣きになって肩をゆすって頼んでくる。
「……まだ、無理だから。好きな人にばれたくないの。公言してるし、口だけなら良いんだけど、写真は……」
「……好きな人?」
「過去ダサかったことしらずに、私にあこがれて仕事手伝ってくれてるの、今。オシャレで、理想だって」
「好きな人……」
「……夢壊したくないし、まだ言えるほどの自信も立ち位置もないから」
震える手に、彼女の気持ちが詰まっていた。
「……真里は、彼のためにオシャレしだしたわけじゃないでしょ?」
「そうだけど、理想って言ってくれた」
「うんまあ、一回ほめられるとそこを誇示したくなるよね、好きな相手から嫌われたくなくて冒険もできないよね、片思いじゃ」
聞いてるだけで、胸がキュンとなる。
呟くような声で、謝罪の言葉を真里は述べた。
「……でも最終的に幸せになるなら、大概の事は受け止めてもらうわけでしょ? 良い顔して作った彼氏なんて遊びで終わるじゃん」
(……良い顔、かあ)
そんな事を考える余裕もなかった。
ただ緊張して、体が強張って、喉が震えて。
対等に男の子と肩を並べて話すことになれるまでがなくて、どこからどこまでが池田個人へ向いた感情なのかさえも、わからなかった。
「大丈夫! 真里はオシャレだって! かわいいって! 結果恵那ちゃんもしたってくれてるんでしょ? ね?」
「それでも……」
暗い様子の真里に、恵那は手を伸ばして、自分の方へ顔を向けさせた。
真っ赤な顔は、やはり涙ぐんでいたけれど、立場を忘れてつい抱きしめてしまった。
「大丈夫ですよ、真里ちゃんは正確いいから、きっと彼は受け入れてくれると思います。女の私から見ても、魅力的なんですから」
「本当に? 私気持ち悪くない?」
「気持ち……? 寧ろ何でそんな事を聞かれるのかわかんないですけど……真里ちゃんは綺麗な女の子ですよ」
「女の子かあ……ん……そっか、ありがとう恵那ちゃん」
含むような言い方をした後、真里は曖昧な笑みを見せた。
しばらくして、真里が落ち着いたころに作業は再開された。
ショーでも立ちまわりだとか、持ってくる物の始動など、大まかなもので3はあったけれど、最終的には盛り上がれた、
意気投合してみんなで楽しい時間を送れた。
お互いに好きなものが一致しているからかもしれないけれど、和やかなムードが終始流れていた。海洋
まるで恵那も最初からこのグループの一員だったかのように思えるぐらいに。
「凄いかわいい、右寄りに縦にレースが付いて、その上に金のボタン……オシャレだね」
「うん、少し個性的で、でも色合いのせいか高貴な感じ」
ベタほめにされたリメリクワンピも、真里にもらったショップバックに詰めて入れた。
(あまったキャンディ入れてくれたから、帰りの電車で眺めよう)
真里達はまだイメージを固めなければいけないという事で、残っていた。
なので恵那は一人で教室から出て行った。
そこで、数人の集団と目があった。指定の制服の名残のあるちょっと息崩した衣服からしてこの学校の生徒だろう。
「あの子だろ? マサトの……」
(……マサト……? え、池田君? やっぱこの学校にきてるの見間違えじゃなかったんだ……?)
「あの」
「あ、やべ」
「ごめん恵那ちゃん、俺ら呼ばれてるから!」
きょとんとして、様子をうかがうと、逃げるように去っていった。
彼らは恵那の事を「恵那ちゃん」と呼んだ。間違いなく恵那の事を知っているということだ。
(なんだか頭の中が混乱してきた)
何がどうなっているのだろう。
こんがらがってきた思考回路は、いつにでも爆発しそうだ。
7→
素材はこちらでお借りしました
創作倉庫に戻る←